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夢幻記

その23~現実~

 望は市の図書館に来ていた。
 斉木先生との約束通り、夏休みに入ってからほぼ毎日、図書館で待ち合わせて一緒に勉強をしている。
 入口で待っていると斉木先生がやってきた。
「おはようございます」
 望が挨拶をすると、斉木先生は挨拶もそこそこに「ちょっと来い」と、望に手招きした。斉木先生は人がいる場所から少し離れると、望に「リーンハルトがどこへ行ったか知らないか?」と尋ねてきたので、望は驚いた。
「やっぱり、リーンハルト、黙って出て来たんですか?」
 それを聞いた斉木先生が目を見開いた。
「知っているのか? ……もしかして、一緒にいるのか?」
「はい」
 望はうなずいた。
「どこに?」
「西の方に馬を走らせて……。王族の別荘だって言ってましたけど」
「二人で?」
「はい」
 斉木先生はため息をついた。
「どうしておまえはそう無防備なんだ」
「まずかったですか?」
「恋愛に対して鈍感すぎるだろう? リーンハルトはおまえのことが好きだと言っているんだ。もうただの友だちじゃない。そんな相手とどうして二人きりで遠出するんだ」
「でも、リーンハルトはいつもどおりでしたよ?」
「それは取り繕っているだけだ。それで、今はどういう状況だ?」
「今は……」
 望はまずいと思った。望が言いよどんでいると、斉木先生が「早く言え」と言った。
「一緒に寝ています」
「一緒にって、まさか一緒のベッドでか?」
「はい」
 斉木先生が「馬鹿!」と声を荒げた。
「早く寝て起きないと。昼間でも寝れば起きられるのか?」
 斉木先生が普通に聞いたら支離滅裂なことを口走った。そして、
「俺は帰るから。取り敢えずテンダールに戻れるか試す。高宮も今日は帰って、なるべく早くテンダールに戻るんだ。戻ったら一刻も早くリーンハルトから離れろ」と言い、足早に去って行った。

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